青野
世界中に小型の生産設備を丸ごと運んで行き、触媒の生産を可能にしようというのが、開発のコンセプトです。
このプロジェクトでは、触媒の材料と水を混合するスラリー(泥状の液体)の調製、ハニカム構造体へのスラリーのコーティング、熱処理という一連の工程を小型設備で実現します。コート工程の設備はすでに実機が完成し、テストを繰り返しています。
開発中の小型生産設備の大きさは、大量生産用の大型設備と比べ、体積比で98.6%減。20フィートコンテナに梱包して船便でそのまま運べる大きさです。
世界中のどこでも、設備が到着してから3日で稼働を開始できます。従来の生産設備を海外拠点で稼働させる場合、据付から試運転開始までに1ヶ月半を要することを考えると、極めて迅速な展開が可能です。
青野
小型生産設備の開発を開始した背景には、キャタラーの生産拠点が未だない世界の空白地帯の存在があります。この空白地帯で新たなお客様を獲得し、触媒のシェアを伸ばそうとするとき、必ず求められるのは現地生産です。タイムリーな供給、為替リスクの回避などを考えれば、現地供給は必須条件。それが実現できなければ、受注獲得のためのコンペにすら参加できないこともあります。 また、初めてのお客様の場合、まずは小規模生産を求められることも多く、従来の大型生産設備では対応しにくいという問題もあります。
青野
小型生産設備での触媒生産に必要な工程は、大量生産と基本は同じです。しかし、従来の大型設備の開発では生産性を重視していたのに対し、本プロジェクトでは小型化しろという号令が…。まったく前例がありません。どこから手を付けてよいか分からず、文献やインターネットで様々な技術を調べるところからスタートしました。
青野
そんなとき、本を読んでいて、「あっ」と思いつきました。ハニカム構造体にスラリーをどろりと掛け、スラリーを吸引する工程があるのですが、その吸引に飛行機のトイレの仕組みを応用できないかと考えたのです。真空に近い状態を発生させ、気圧差で一気に吸い込む方法です。
従来の生産設備では、扇風機のように風を起こすブロワーで吸引力を生んでいます。その機構を真空機器に置き換えたところ、大幅な小型化に成功しました。
渥美
ハニカム構造体を真空タンクの上に置き、ダイレクトに吸引する構造にしたことで、さらにコンパクトになりました。従来機では、吸引力を発生する装置とハニカム構造体の間にダクトなどがあり、その分だけスペースが必要でした。
渥美
本プロジェクトは、小型生産設備を現地に運び、ポンと置いたらすぐに使えることを目指しています。ガス配管を設置して、屋外にガス貯蔵のタンクを置いて…という作業をしていると、小型生産設備の理想を実現できません。電化製品のように、電気コンセントにプラグを挿せば使えるというのがベストです。
そこで、ガスは使わないことにしました。コーティングされて濡れたハニカム構造体を乾燥させ、陶器のように焼き付ける熱処理工程は、電気式を採用しました。世界中にはガス供給に不安のある国が多いという理由もあります。
青野
他にも、付帯する設備をできるだけなくしました。例えば、工業排水の処理設備を付帯させずに済むように、排水は極力出さない。少量の洗浄水などはタンクに貯蔵し、現地の業者に法令に則って処理してもらいます。
渥美
小型生産設備の開発で得た技術は、大型機にも応用できます。1つ例を挙げますと、従来機ではスラリーの温度管理や粘度管理を適正に行うため、3つのタンクを連結していました。しかし、小型生産設備では真空によりスラリーを一瞬で吸引するため、中間タンクは必要ないことが判明。結果として、スラリーのタンクを1つに減らしました。この知見を活かし、大型機でもタンクの一部を省略したケースがあります。 また、大型機への採用を検討しているセンサーなどを、小型生産設備で先行的にテストすることもあります。
小型の設備開発の成果をすぐに大型機に応用できるのは、部署間のコミュニケーションが活発なキャタラーの風土のおかげでしょう。社員がワンフロアで机を並べているため、誰がどのような仕事をしているのかが分かりますし、関心のある技術について気軽に尋ねられます。
青野
コート工程については、すでに実用化の目処がついています。熱処理についても、パイロット機の製作に間もなく着手します。世界の空白地帯に機動的に展開し、触媒生産を可能にするというコンセプトを実現するため、2018年にはすべての生産設備を完成させたいですね。
※掲載している内容はインタビュー当時のものであり、現在の状況とは異なっている場合があります。