自動車用触媒の開発は、大きく3つのフェーズに分かれています。
1つ目は、要素技術開発のフェーズです。現在、私はこのフェーズで仕事をしています。
2つ目は、要素技術を組み合わせた我々の製品をお客様に提案するフェーズです。
そして3つ目は、我々の製品がお客様に採用された後、量産化を検討するフェーズです。
若手社員は、この3つのフェーズをローテーションしながら経験を重ねていきます。
仕事の内容は各フェーズで異なります。ただ、製品ができあがるまで、計画立案→実行→検証→まとめのサイクルを繰り返す点は、触媒開発のどのフェーズでも共通。若手社員はこのサイクルを短期間かつ1人で回せるようになることを第一の目標としています。
研究開発本部 基盤技術開発部 構成開発室
後藤 貴志
触媒はモノリスと呼ばれるハニカム状の構造物に、活性を高める貴金属や酸素貯蔵能(OSC)を持つセリアージルコニア固溶体、耐熱性を高めるアルミナなど、種々の異なる材料が塗布されています。実際に車に搭載された触媒の中では、これらの材料上で様々な反応が起こっており、触媒の入口から出口に向かって反応が次第に変わっていきます。
また、触媒には長時間の高温耐久性が求められます。そのため、ナノオーダーの領域で材料の上に貴金属を固定化し、貴金属や材料の耐久性を維持できるようにしています。近年、解析技術が向上し、解明されてきたことも多いのですが、ナノオーダーの領域では未知の点も多く、触媒開発の難しさを感じています。目に見えない状態を把握するのは困難ですが、何が起こっているかを探りながら開発をおこなっています。
開発した触媒は車に搭載し、シャシダイナモと呼ばれるローラー上を走らせて評価します。触媒の浄化対象となる排ガス成分は、各国で決められた走行パターンやエンジンの種類によっても異なるため、お客様である自動車メーカーとのコミュニケーションが非常に重要になってきます。研究者と聞くと実験室にこもるイメージがあるかもしれませんが、お客様の要望(ニーズ)を直接伺い、ニーズに合わせた触媒を提案(カスタマイズ)する機会が多くあります。私たちはお客様と積極的にコミュニュケーションを図ることで、ニーズに合わせたカスタマイズが実現し、お客様の信頼獲得につながると考えています。
私が入社直後に担当したのは、トヨタ自動車殿の2代目プリウスに使われた触媒の開発でした。そうは言っても、大学院を出たばかりの新人でしたから、先輩の指示に従い、スラリーの粘度調整などを行いました。ただ、何か1つのものをつくり込んでいく面白さは、学生時代の研究と共通していました。毎日、ワクワクしながら開発に取り組んでいました。
入社4年目くらいから、テーマを与えられ、取り組むようになりました。思い出深い仕事としては、触媒の圧力損失への対応があります。
新人のころの私は、触媒は排気ガスをきれいにするだけでよいと思っていましたが、そうではありません。例えば、触媒はエンジンの後ろについていますから、エンジン出力と燃費に影響を与えます。
あるとき、お客様に提案した触媒について、圧力損失が高いというご指摘を受けました。すぐにプロジェクトチームをつくり、影響因子の解明に乗り出しました。いくつもの試作品をつくって圧損を計測し、触媒を分解して顕微鏡で試作品の表面状態を調べたりすることの繰り返し。今でも当時のメンバーと「あのときは楽しかったよね」と話すほど多くの試験に取り組み、影響因子を「手の内化」、触媒の圧損をコントロールできるレベルに到達しました。圧損と影響因子の関係をお客様へ報告し、お客様からは短期間で触媒の圧力損失を低減させることが出来たと好評価を得ました。
圧損の影響因子を突き止めたプロジェクトもそうですが、私たちの提案にお客様がご不満を感じたとしても、徹底した原因究明によって、かえって大きな信頼を得ることもできます。研究開発では苦しいこともありますが、その成果が会社の評価向上につながると考えれば、大きなやりがいを感じますね。
■ 2015年 4月入社
■ 高須 亮佑
※掲載している内容はインタビュー当時のものであり、現在の状況とは異なっている場合があります。